[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
桂と入江も同時に幾松の怒り散らかした様を想像した。
それから入江は哀れむ様な顔を桂に向けた。
「木戸さん,松子を怨念の塊にせんとって下さい……。」
「小太郎さんの言い方やと私が怨霊みたいやねんけど。
もぉ名前はいいです……。大人しく松子に慣れます……。それより向こうで別行動って木戸さんは何処に身を置くんです?」
「準一郎とは呼んでくれないんだね……。【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
まぁいい……。あっちでは向こうにいる仲間に手配してもらった宿を使う。
それと最短距離で向かいたい所だが検問の緩い所を通る。だから少し遠回りになる。」
ようやくまともな会話に戻れて三津はふぅと息を吐いた。
「迂回ですね。多分木戸さんと私が考えてる道は同じでしょう。肩書はどうします?」
「商人とその妻,下男でいく。」
「まぁ妥当ですね。ところで出石まではどう変装して切り抜けたんです?」
「何故今それを聞く?」
桂はにんまり小首を傾げて顔を覗き込んでくる入江に目元を引き攣らせた。
『絶対知ってるだろ……この顔……。』知っているとなれば情報源はただ一つ。幾松だ。
ここでまた入江に踊らされてはなるまいと凛と澄ました。
「船頭のふりをして行ったんだ。」
「それだけじゃあ幾松さんの手借りる必要ないでしょう?」
入江は更に桂を追い詰めにかかった。真相を吐くまで終わらないと感じた桂はちらっと三津の様子を窺った。
「あっ何言われても大丈夫です。もう大概の事では動じない自信あります。」
その視線に気付いた三津はお構いなくと冷たくあしらった。
「幾松には変装に手を貸してもらっただけだ。」
「つまりは?」
勿体ぶらずに言ってよと入江は笑みを深める。その腹黒いことこの上なし。
「女物の手拭いを借りただけだ。」
「ですよねぇ。桂さんのその長身で剣で鍛えたその体。女装は無理ありますもんねぇ。」
「えっ女装!?見たいっ!!」
三津の目がキラキラと輝きを取り戻した。もう疲れなんて吹っ飛びましたと言わんばかり。
「ここは松子をどっかの藩の侍女に入るどっかの藩の娘に仕立てて,木戸さんは松子の侍女,私は下男って手もありますよ?」
「末恐ろしい事言うな。こんな大柄な女目立って仕方ないだろう。いいか?我々は目立ってはならん。忘れるな。」
「えー木戸さん化粧も似合うやろうから絶対綺麗やのに。私が仕える侍女で木戸さんがどっかの藩の侍女に入るどっかの……。」
「松子まで馬鹿な事を言うな。それも却下だ。」
「じゃあ化粧しなくとも綺麗なお顔の木戸さんと小太郎さんは,道中の茂みで何をするつもりでしたか?この前の続きって?」
『どさくさに紛れてとんでもない事聞いてきた……。』
桂はきょとんとした顔で“松子分かんない”と見つめてくる三津に恐怖を覚えた。入江と過ごす時間が長かった為にこんな問い詰め方を覚えてしまって……。手法が全く同じじゃないか。
「えーそれは私達の秘密ですよね?」
入江は入江で教えてもあげてもいいけどなぁと勿体ぶった素振りを見せる。
「あの日は何も無かった!私がすぐ寝た!」
桂はカッと目を見開いてあれは悪い夢を見ていただけだと心の中で自分に言い聞かす。
「ん?良すぎて気絶したの間違いですよね?」
「えっ?嘘……ホンマに何したの?」
唖然とする三津に入江は知りたい?知りたい?と無邪気に笑う。
『こいつ……斬りたい……。』
桂は両手を畳について項垂れた。入江を連れて来た自分を呪い,心底後悔した。それもあとの祭りだが。
人は斬らない,無駄な血は流さないと誓っていたがこの時だけはそれを無かった事にしたかった。
「三津さんのお陰で話は纏まったき存分に褒めたって。」
中岡の言葉に山縣が真っ先に近寄って,よくやった嫁ちゃんと頭を鷲掴みにした。それに続いて伊藤が優しく頭を撫でた。その次には赤禰がお疲れ様と囁いて溢れる涙を何度も親指の腹で拭った。
「お前はいつまで引っ付いとんじゃ。」
最後に入江が高杉の衣紋を掴んで引っぺがすと三津に向かって両手を広げた。何も言わず穏やかに笑みを浮かべた。
「ぐっいぢっさっ!」
三津はその腕の中に収まって胸に顔を埋めた。
「私っみんなの役に立てた?」
「立った。充分過ぎるぐらい。またしんどい役目をさせてしまった。ここでゆっくり心も体も休めていき。」 【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
高杉達の前では見せない柔和な安らぐような顔を三津の頭に擦り寄せた。
以前とはまた違った二人の空気を幾松は複雑な表情で見つめた。
「ホンマに……疲れた……。」
三津は入江の胸にもたれたまま瞼を下ろして全体重を預けた。
「……寝た。」
三津が一瞬で眠りに落ちた。入江はその体を抱き留めて驚いた顔で中岡を見た。
「ほんに申し訳ない。私が萩についたその足ですぐに京に連れてったが。三津さんも有事やと理解してほぼ休まずついて来てくれたけん。
それで桂さんに対面して帰りは日も昇らんうちから向こうを出た。
まぁ……対面した夜もゆっくり休めんかったみたいや。」
中岡が困惑気味な笑みを浮かべて頭を掻くから入江は嫌な予感しかしなかった。
「もしかして……。」
入江は腕の中に目を落とし,頑なに外さない襟巻に手をかけた。白い肌に浮かぶ痕の数に絶句した。
「……やり過ぎやろ。」
入江は盛大に溜息をついて額に手を当てた。三津に執着してる桂が数ヶ月ぶりに会う三津をあっさり帰すはずはないと思っていたが。
「これはしんどい……。」
覗き込んだ赤禰は目元を引き攣らせた。みんながどれどれと興味を示すから入江はそっと襟巻を外した。
「襟巻外さんはずやわ……。あの人も溜まりに溜め込んだモン全部吐き出したんやろ……。
九一,三津さん部屋で寝かしちゃり。これは流石にきつかったやろ……。」
高杉でさえやり過ぎだと思ったが幾松だけは口元を手で隠して笑いを堪えた。
「セツさんすみません,布団をここに持ってきてもらえませんか?あと武人さん背中の稔麿外したって。」
入江のお願いにセツは快く寝床を準備してくれた。赤禰も背中に背負った荷を丁寧に外して久しぶりに触れる吉田にもお帰りと声をかけた。
三津を離すのは少し名残惜しかったがゆっくりおやすみと布団に下ろした。「ここでええんか?騒がしいぞ?」
高杉の言葉に入江は三津の手を握りながらいいと答えた。
中岡から同盟の話を聞きたいし三津は目の届く所に置いておきたかった。
「それでどんな様子やった?話し合いの場は。」
高杉の声色が真剣なものに変わって部屋の空気も少し緊張感が漂った。
「初日から険悪じゃ。桂さんの精神面考えたら三津さん必要やったのに,一人でいいって言うけん臨んだんやが……。互いに一言も喋らんと一日目は終わった。」
無言で過ごした空間はそれは異質なもので向こうについてた小松帯刀もげっそりしてたとその様子を語った。
「それ見て坂本が三津さん連れて来いって私に命じたけど知らん間に関係は解消されてみんなは居場所教えてくれんかったが。」
教えてもらえなかった事は若干根に持っていて,不貞腐れたような言い方をする中岡に高杉がちょっと待ったと手を上げた。
「三津さんがかなり傷心で黙ってここ飛び出す程やったけぇ会わせるのが酷やと思ったそっちゃ!
それに三津さんはただの女中じゃ。そんな子を国をかけた重要な場に寄越したくなんかないわ。」
「文さんも行かせたくなかったみたいやが三津さんは桂さんの為に行くんやのうて長州のみんなの為に行くんやって納得させた。
それからただ静かな時が流れた。
たまに部屋の前を彷徨く影があった。多分桂が気になって様子を覗いに来たんだろうなと思った。でも入江を起こしたくないから無視した。
眠ってから全く動かなかった入江が少し身じろいで睫毛が震えた。
「起きました?」
「んー……本当にずっと居てくれたんですか……。」 【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
入江はまだボーッとする頭でどのくらい寝たのだろうと考えた。
「入江さんホンマは心も体もだいぶお疲れやったんですね。気付かなくてすみません。」
「え?何で三津さんが謝るんです?気付かないも何も私は何も言ってませんからね。分からなくて当然だし,寧ろ三津さんは仕事の邪魔された事とずっとこの体勢させられてたのを怒ってもいいんですよ?」
入江は起き上がって三津の正面で胡座をかいた。ようやく解放された三津は痺れた足を崩して苦笑した。
「怒りませんよ。みんなを癒せるのは私やって言ったやないですか。
言葉にせんくても入江さんにはそれが必要で,みんなもそれを分かったから今こうなってるんでしょ?
必要としてもらえたのに怒る理由がどこにあります?」
「三津さん鈍いようでそう言う所は敏感ですよね。」
「えっ馬鹿にしてます?」
「半分。でも半分はビックリしてます。」
半分でも馬鹿にされてると言われた三津は不服そうな顔をしたが入江は愛おしそうに見つめ返す。
「三津さんこそ疲れませんか?そうやって人の事にばかり敏感で自分後回しにして。」
「誰かの為に何かして疲れると思った事はないと思いますねぇ。その人が元気に笑ってくれるなら私は嬉しいんで。」
「出た!天然の人たらし!」
「それはただの悪口ですね。許しません。」
怒った顔をしてみせたが,入江の顔がさっきよりも穏やかに見えたのと言葉の端々にいつもの雰囲気が感じられた事に安堵した。「お茶でも淹れてきますね。」
足の痺れも治まってきたところで三津は一旦部屋を出た。お茶を淹れに行くフリをして久坂の元へ向かった。
「久坂さん,ちょっといいですか?」
入江の部屋が近いから小声で中に呼びかけた。久坂は静かに障子を開いて三津を中に入れた。
「やっと解放されましたか。すみませんね子守押し付けて。」
「お茶淹れるって少しだけ抜け出しました。あの,入江さんが少し変な理由,ご存知ですよね?」
久坂は神妙な面持ちで頷いた。
「はい,前にもあぁなった事が。以前は松陰先生が亡くなった時に。」
それだけで充分納得出来た。普段通りに取り繕っていても,大事な人を失った事実は心をズタズタに切り刻む。内側はボロボロなんだ。
「その時は一人で塞ぎ込んでしまってようやく出て来たと思えば,何かから逃げるように縋る場所と言うか拠り所を探してるようで……。時間が経てば元に戻るんですが。
九一にとってあまり掘り起こされたくない部分もあると思うんで多くは話せませんが,そのうち本人から話してくれるとは思います。」
人の心とは本当に難しい。
分かって欲しいと願いながらも踏み込んで欲しくない部分を併せ持っていて,その線引きは本人にしか分からなくて言葉にしなきゃ伝わらないのに,言わなくても分かって欲しいとも思っている。
入江が三津に何をどこまで望んでいるかは分からない。それでも一緒に居てほしいと言われたからにはそれを叶えるのが一番いいんだろう。
「分かりました。じゃあ戻りますね!一人にしてると心配なんで。」
三津は話してくれてありがとうございますと礼をして部屋を出た。
それから急いでお茶を用意して入江の部屋に戻った。
「帰って来た。何処か行っちゃうかと思ったのに。」
「何処かって何処ですか?今日の私の居場所はここですもん。」
どうぞと湯呑みを差し出すと入江は嬉しそうに笑って口をつけた。でもすぐに湯呑みを置いて三津の手を取って両手で握った。
「三津さん温かい。」
「武士って面倒臭いですよね。」
「えっ急な悪口……。」
何の脈絡もない悪口に入江はぽかんとしてしまった。
「違った。武士の誇りってヤツですか?面倒臭くないですか?
壬生でも土方さんとの喧嘩のもとになったんですけどね何で切腹が正しい道なんでしょう?武士としての生き様とか死に様とか,私からしたら何ほざいてるん?ふざけんななんですよ。」
『私の知らない小五郎さんがまだ沢山いるんやな…。』
知らない所で知らないうちに,心を通わせて肌を重ねて交わってしまうのでは。
もうすでにそんな相手がいるのでは。
幾松の所へ行って帰って来ないのでは……。
「やだ…。」【BOTOX 美容】 收鼻翼、去除眉心紋療程資訊 - Cutis
「ん?」
「嫌です,他の人のとこ行ってしまうの嫌ですっ!」
この言葉を引き出せて桂は満足だ。
ねじ込んだモノを奥深くに突き立てた。
「んんっ!」
「行かないよ。」
『いつもいつも嫉妬してるのは私の方だ。三津がヤキモチを焼いた事があっただろうか。』
三津はいつも控え目だから,ヤキモチなんて焼かず,“私なんて…”と一歩下がってそのまま身を退いてしまうんだ。
だからあからさまな嫉妬心を引き出せたのは歓びでしかない。
『足りないのは私への執着心だ。』
「行かないけど…もし行ったらどうするの?」
ゆっくりと押しては引いてを繰り返して反応を伺った。
どう引き止めてくれるんだろうかと期待した。
「行っちゃうんですか…?」
“幾松さんの元へ…。”
三津の両手が桂の頬へ伸びた。
求めるように包み込まれて,赤らんだ顔と潤んだ目でじっと見つめてくる。
ヤダヤダと子供のように駄々をこねても可愛いだろうなと思っていたのに,
「行ってしまうなら…私は…一生懸命小五郎さんの事を忘れます。」
涙ぐみながら声を震わせてそう言うのだ。
「どうしてそうなるかな?君って子は。」
さっき見せた嫉妬心はどこへ行った。そうじゃなくて“行かないで”とか“離しません”とか言ってほしいのだけど,そんな事大人の男が言える訳ない。
『悲観的になったのは誰かと自分を比べたんだな。』
「どうしてそんなに自信がないの?今誰と自分を比べたの?」
何気なく問う振りをして頬から三津の両手をそっと外し布団に抑えつけた。それから胸に舌を這わせて行為を続けた。
こんな事で冷めてしまうのは嫌だったと言うのもあるけど,じっと目を見て問い詰めればきっと,もっと畏縮して自分と向き合ってくれない気がした。
「もっと我儘になりなさい。もっと私を困らせなさい。それぐらいしたって罰なんて当たらないさ。」
「小五郎さんの口から他の女の人の話なんて聞きたくないです…。
不安になるから…。」
吐息混じりに弱々しくささやかな本音を伝えた。最後なんて消え入りそうなか細さで。
「他には?」
鼻先で首筋をくすぐって,耳元で次の言葉を要求した。
「むっ…無理です!こんなんで言われへんっ…。」
中で猛々しいモノが突き動かされて,加えて耳元で囁かれてるのにこんな状態で言葉なんか出て来ない。
「じゃあ後で聞かせて?」
楽にさせてあげると含みのある笑みを浮かべた。
「私小五郎さんに我儘なんて言えません…。」
今日も手加減してもらえなくて三津は少し不貞腐れながら桂の少し後ろを歩いた。
「もっと会いたいと言ってくれてもいいのに…。」
桂も同じ様に不貞腐れた顔を作ってみせた。
「そんな事言えませんよ,お忙しいのに。私にとって桂さんが毎日無事に過ごせる事が一番なんです。」
「やっぱり三津は三津だね。」
この性格は直らないか困ったなと笑った。
「……他の女の方々は会いたいと我儘言うんですか?」
「おや?ヤキモチかい?」
口を尖らせ目を伏せた三津の顔を覗き込みに行った。
「別に何でもありませんっ!」
「妬いてる?でも心配いらないよ。こんなに肌に三津の匂いが纏わりついてるんだ。そんな男誰も相手にしないよ。」
三津ははっとして両手で顔を覆った。
「私からも桂さんの匂い…する…。」
しっかりと染み付いている。どこからともなくふわりと香る桂の匂い。
この匂いは他の人にも分かるのか。
「これで帰ってからもしばらく幸せに浸れるんだ。」
桂が幸せそうに笑うから,三津も目尻を下げた。
帰ってからも包み込まれたままでいられる。
桂は三津の香りと幸せを持ち帰った。
『すっきりした顔してる…。』
これでしばらくは機嫌が良いはず。伊藤はほっと胸を撫で下ろした。
「あんな清々しい顔されてると腹立つよね。三津も断ればいいのに。」
『こっちはしばらく機嫌悪い…。』
吉田は伊藤の背後から,自室へ戻っていく桂の背中をじっとりと睨みつけてその場から離れた。人の幸せは楽しくない。
「本当に困った人達だ…。」
「あぁ全くだ。」
数日後。松原は腹の傷が膿み、高熱を出して寝込んでいた。その世話を新撰組の医者こと山崎と、買って出た桜司郎が担当している。
桜司郎は巡察へ出ており、山崎は別の隊務に出ている。そんなある日のことだった。
もう夏が終わりを告げようとしており、物悲しく 数日後。松原は腹の傷が膿み、高熱を出して寝込んでいた。その世話を新撰組の医者こと山崎と、買って出た桜司郎が担当している。
桜司郎は巡察へ出ており、顯赫植髮 山崎は別の隊務に出ている。そんなある日のことだった。
もう夏が終わりを告げようとしており、物悲しくるような笑みを浮かべている。
「武田"はん"では無いでしょう?貴方はもう組長では無いのだから、私の方が上司の筈だが?」
「そうやったなァ……。じゃあ、武田センセやな」
ふん、と鼻を鳴らすと武田は松原の横に座った。そして声を潜めながら口を開く。
「それはそうと松原。組長の立場で不義を働くとは。局長や副長が許しても、私は許せんな」
「……返す言葉もあらへんわ。謝ることしか後は出来へん」
松原は痛む腹を抱えながら起き上がると、頭を下げた。それを興味無さそうに見やると、武田は口角を上げる。
「謝罪で済むなら、法度は不要だな。……お前の不義に鈴木桜司郎君も関わっているのだろう?」
その問い掛けに松原は目を細めた。平隊士となっても、手負いとなっても今弁慶と謳われた気迫は健在である。ビリビリとした空気を感じ、忌々しげに武田は舌打ちをした。
「……鈴さんは関係あらへん!」
「ありません、だろうッ!?目上の者に対する言葉遣いが、まるでなっていないな」
武田は立ち上がると、足で松原の側頭部を蹴る。ぐ、と横に転がるが直ぐに起き上がった。
「これは私闘ではなく、上司からの躾だ。有難く思えよ」
「まさか、此度のことは武田はんが……」
松原は鋭い眼光で武田を睨みつける。心外だと言わんばかりに鼻で笑うと、武田はんだ。
「だったらどうする……?お前は幹部だったから、降格程度で済まされたんだ。だが、鈴木君はどうだろう?あれはただの隊士だ。謹慎では済まないだろうなぁ……。可哀想に、お前と仲良くしたばかりに」
「この……ッ。あんた、鈴さんのことを気に入っとったやんけ!」
そう言いながら松原は目を剥き、武田の襟元を掴みあげる。
「ああ、もうアレは良い。私の誘いを断っておきながら、沖田君のになっているようだ。人を見る目が無い男はどうでも良い」
それよりも、と武田は言葉を続けた。
「馬越君が欲しいんだ……。その為には、山野と鈴木が邪魔なのだよ。邪魔な奴らを片付ける良い機会じゃないか?貴方もたまには良い仕事をしてくれる」した。
そして刀も持たずに部屋を飛び出す。腹に巻かれた晒しからはじわりと血が広がっていたが、それすら気にならなかった。
「……はは、ふはは!これで松原も終わりだ……」
武田は部屋から出ると、近くに待機させていた隊士に目配せをする。誰かが近付けば合図で知らされるように仕組んでいたのだ。
「おい、松原が脱走した。手筈通りに奴らへ声を掛けに行け」
松原に殴られた頬を触りながら、隊士へそう命を下す。だが、隊士は中々動き出そうとしない。顔色を青くしながら、僅かに震えていた。人を陥れることに対しての罪悪感が大きいのだろう。
「あ、あの……。もう、私は、」
「何をしている。早く行けッ!法度破りで死にたいのかッ!」
ビクリと肩を跳ねさせると、今度こそ隊士は門に向かって駆けていった。
「私の策に誤りなど無い。後は、刻を置いてから松原の脱走を報告すれば……」