数日後。松原は腹の傷が膿み、高熱を出して寝込んでいた。その世話を新撰組の医者こと山崎と、買って出た桜司郎が担当している。
桜司郎は巡察へ出ており、山崎は別の隊務に出ている。そんなある日のことだった。
もう夏が終わりを告げようとしており、物悲しく 数日後。松原は腹の傷が膿み、高熱を出して寝込んでいた。その世話を新撰組の医者こと山崎と、買って出た桜司郎が担当している。
桜司郎は巡察へ出ており、顯赫植髮 山崎は別の隊務に出ている。そんなある日のことだった。
もう夏が終わりを告げようとしており、物悲しくるような笑みを浮かべている。
「武田"はん"では無いでしょう?貴方はもう組長では無いのだから、私の方が上司の筈だが?」
「そうやったなァ……。じゃあ、武田センセやな」
ふん、と鼻を鳴らすと武田は松原の横に座った。そして声を潜めながら口を開く。
「それはそうと松原。組長の立場で不義を働くとは。局長や副長が許しても、私は許せんな」
「……返す言葉もあらへんわ。謝ることしか後は出来へん」
松原は痛む腹を抱えながら起き上がると、頭を下げた。それを興味無さそうに見やると、武田は口角を上げる。
「謝罪で済むなら、法度は不要だな。……お前の不義に鈴木桜司郎君も関わっているのだろう?」
その問い掛けに松原は目を細めた。平隊士となっても、手負いとなっても今弁慶と謳われた気迫は健在である。ビリビリとした空気を感じ、忌々しげに武田は舌打ちをした。
「……鈴さんは関係あらへん!」
「ありません、だろうッ!?目上の者に対する言葉遣いが、まるでなっていないな」
武田は立ち上がると、足で松原の側頭部を蹴る。ぐ、と横に転がるが直ぐに起き上がった。
「これは私闘ではなく、上司からの躾だ。有難く思えよ」
「まさか、此度のことは武田はんが……」
松原は鋭い眼光で武田を睨みつける。心外だと言わんばかりに鼻で笑うと、武田はんだ。
「だったらどうする……?お前は幹部だったから、降格程度で済まされたんだ。だが、鈴木君はどうだろう?あれはただの隊士だ。謹慎では済まないだろうなぁ……。可哀想に、お前と仲良くしたばかりに」
「この……ッ。あんた、鈴さんのことを気に入っとったやんけ!」
そう言いながら松原は目を剥き、武田の襟元を掴みあげる。
「ああ、もうアレは良い。私の誘いを断っておきながら、沖田君のになっているようだ。人を見る目が無い男はどうでも良い」
それよりも、と武田は言葉を続けた。
「馬越君が欲しいんだ……。その為には、山野と鈴木が邪魔なのだよ。邪魔な奴らを片付ける良い機会じゃないか?貴方もたまには良い仕事をしてくれる」した。
そして刀も持たずに部屋を飛び出す。腹に巻かれた晒しからはじわりと血が広がっていたが、それすら気にならなかった。
「……はは、ふはは!これで松原も終わりだ……」
武田は部屋から出ると、近くに待機させていた隊士に目配せをする。誰かが近付けば合図で知らされるように仕組んでいたのだ。
「おい、松原が脱走した。手筈通りに奴らへ声を掛けに行け」
松原に殴られた頬を触りながら、隊士へそう命を下す。だが、隊士は中々動き出そうとしない。顔色を青くしながら、僅かに震えていた。人を陥れることに対しての罪悪感が大きいのだろう。
「あ、あの……。もう、私は、」
「何をしている。早く行けッ!法度破りで死にたいのかッ!」
ビクリと肩を跳ねさせると、今度こそ隊士は門に向かって駆けていった。
「私の策に誤りなど無い。後は、刻を置いてから松原の脱走を報告すれば……」